ウオップパラダイス: 慶應大学構内のカフェで『ジャングル』を読む

2022年5月18日水曜日

慶應大学構内のカフェで『ジャングル』を読む


アプトン・シンクレアの『ジャングル』(1906)

を読む。

シカゴの食肉加工工場の過酷な仕事。屠殺人の

危険な作業による裂傷、手足の切断。換気設備の

ない作業場に充満する化学薬品、塵芥。積まれた

肉の上に盛られた鼠の糞、鼠の死骸。それらばか

りか、足を滑らし落下した作業員とともに、大樽

の中に混ぜ込まれ、製品として出荷される。

アメリカ資本主義の暗黒部が、これでもかとばか

りに描かれる。

身の毛もよだつ思いで、夢中になって読んでて、

ふと目を上げると、そこは慶應大学の構内。

大学生たちが足取りもかるく行き交っている。

隣りのベンチでは、PC でのリモート会話で

ホームページか何かの依頼打ち合わせ、また

隣では昼食代わりか、おにぎりを頬張り、男子

学生が会話している。

広場では、ジャージ姿の男女が立ち話。

いずれもその振る舞い、仕草になんとなく余裕

がある。身なりもさりげない品の良さでかため、

足元も地味におしゃれなスニーカー。かと思えば

外資系企業 OL かと見紛うほどの、ピシッときめ

たスーツ姿の女性がよぎる。

おお、からだの中心部分から猛烈な劣等感が湧き

出してきたぞ。『ジャングル』の世界が身近に感

じられらるこの身としては、大学生たちの有りよ

うが眩しく羨ましくも、強烈に遠ざけたくなる。

それは遥かな高みにいる若い奴らに対しての、救

いようのない容赦ないコンプレックス。

じくじくと熱い怒りと惨めさの塊、それが吹き上

がり全身を覆いつくす。その時、なぜだか強い悦

びの感覚がやってきた。

そうか、この物語を読むには、この大学構内ほど

ふさわしい場所はないんじゃないか。地獄の生活

を煌めく希望と可能性の世界で読むことほど、強

烈に脳に刻み込まれる体験はないのではないか。

ふひひひひ…、自虐と絶望の体験は、ひとつの

楽しみともなることを知った。


#ジャングル



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